研究概要

免疫系は、リンパ球を中心とした免疫細胞のネットワークにより自己・非自己を識別し、 その情報を記憶する極めて高度な生命システムです。当研究室ではこれまでに、T細胞の発生・分化・増殖に必須な サイトカイン受容体(γc鎖)ならびにT細胞補助刺激分子(gp34/OX40 リガンド)を世界に先駆けて単離し、 免疫系細胞の分化・増殖・活性化ならびに記憶の制御機構を分子レベルで解明してきました。これらの制御機構の 異常はアレルギーをはじめ、自己免疫疾患や慢性炎症性疾患、免疫不全症などさまざまな免疫疾患を引き起こします。 これらの疾患の原因を生体レベルで解析するために、種々の遺伝子改変マウスを用いて、疾患発症制御の解明と治療法の開発を行っています。 免疫異常による疾患はいずれも難治性で重篤な疾患が多く、新型コロナウイルス感染症の重症化も免疫応答の暴走と考えられています。 免疫制御の仕組みの解明とその臨床応用は今後の医学研究において極めて重要な研究課題です。



  • 1.免疫記憶

    ‘二度罹りなし’として、大昔からその存在が示唆されていた「免疫記憶」はヒトをはじめとする高等生物の生体防御・ 維持における最も重要な生体システムの一つです。ところが、免疫記憶機構の核となるCD4陽性(ヘルパー)記憶細胞の 成立分子機構は,従来の多くの研究にも関わらず,ほとんど明らかにされていません。さらに、寿命が数十年とも言われる記憶T細胞が生体内のどこでどのように維持されているかも全く分かっていません。私達は、記憶T細胞の産生と維持にOX40シグナルが重要であることを発見したことから、OX40に注目して記憶T細胞の産生と維持のメカニズムの解明を目指しています(図1)。
    アレルギーが毎年同じ時期に発症したり自己免疫疾患が再発し慢性炎症を繰り返したりするのはヒトに免疫記憶が あるからであり、いわば免疫記憶はアレルギーや自己免疫疾患の病態の本質であると言えます。 したがって,免疫記憶の制御機構が解明できれば,アレルギーや関節リウマチなどの自己免疫疾患を治療することが可能になります。また、免疫記憶を自由に操作することにより、一回の接種で永久に効く夢のワクチンが開発できるかも知れません。そこで本研究室では、私達自身が開発した実験系を用いてヘルパー記憶T細胞の産生と維持の分子機構を解明しようとしています。

  • 2.アレルギーと2型自然リンパ球

    自然リンパ球(Innate Lymphoid cells; ILC)は、T細胞、B細胞と共通のリンパ球系共通前駆細胞から分化しますが、抗原受容体を有さず、自然免疫系に作用するリンパ球細胞集団です。各臓器、組織に常在し、感染、炎症時に早期に大量のサイトカインを産生し、さまざまな免疫応答、病態形成に重要な役割を担います。ILCは1〜3型に分類され、なかでも肺や皮膚、腸管に存在する2型自然リンパ球(ILC2)は、アレルゲン感作時に上皮より分泌されるIL-33、TSLP、IL-25の刺激により活性化し、IL-5、IL-9、IL-13等の2型サイトカインを産生することで、アトピー性皮膚炎、気管支喘息等のアレルギー疾患の発症に関与します。
    当研究室ではこれまで、T細胞の活性化に重要なTNF受容体型T細胞補助刺激分子の免疫機能について研究を行ってきました。近年新たにILCにもこれら補助刺激分子が発現しており、T細胞での抗原受容体刺激の補助とは全く異なる機能を有することがわかってきています。私たちはマウスを用いた研究から、TNF受容体型T細胞補助刺激分子の一つであるGITR (Glucocorticoid-induced TNFR-related Protein)のシグナル伝達経路がIL-33刺激依存的なILC2の活性化を亢進させ、アレルギー性肺炎症を増悪させることを明らかにしました(図1)。次なる課題として、実際のヒトアレルギー疾患でのTNF受容体型補助刺激分子によるILC2機能制御の関与を明らかにするべく、現在、アレルギー疾患患者検体を用いて、TNF受容体型補助刺激分子の発現を中心にILC2の性状解析を進めています。アレルギー疾患発症におけるILC2の新規制御機構を解明することで、アレルギー疾患の新規治療法開発への応用が期待されます。

  • 3.T細胞の恒常性

    獲得免疫の司令塔であるT細胞は、末梢リンパ組織を循環することで外来異物の侵入を絶えずチェックしています。私たちの体内に病原体が侵入すると、外来抗原特異的ナイーブT細胞は強く増殖してエフェクター細胞となり、病原体の駆逐へと寄与します(経路A)。感染終結後、大半のエフェクター細胞は死滅しますが、一部の細胞はメモリー細胞として終生免疫を形成します。
    このように、従来のT細胞免疫学では、主に外来抗原特異的免疫応答に焦点をあてて研究が進められてきました。その一方で、明示的な外来抗原刺激を欠く定常状態下におけるT細胞の挙動は、実はあまりよく知られていません。全てのT細胞は胸腺における正の選択を経て産生されるため自己抗原に対し弱い親和性を有しますが、私たちはこの「自己特異性」に着目し、一部のT細胞が自己認識によりメモリー表現型を獲得し恒常的に準活性化状態を呈することを発見しました(経路B)。この知見に基き、現在我々は、このメモリー表現型T細胞の自己反応性のもつ生理学的ならびに病理学的意義を探索することで、T細胞の恒常性の全容解明に挑戦しています。




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